クリスマス・ローズの物語
ベツレヘムにひとりの貧しい羊飼いの少女が住んでいました。その子の名前はマデロンと言いました。
ある寒い夜のこと、マデロンが羊をテントへ入れていると、立派な三人の紳士が通りかかりました。その手には煌く美しい贈り物が握られています。マデロンは思わず尋ねました。
「この寒い夜に、みなさんはどこへ行かれるのですか」
「われわれは王の元へ行く」と、三人の紳士の一人が答えました。
「そう、王の中の王の元へ」もう一人の紳士が言いました。
マデロンはあわてて尋ねました。
「その手に持っていらっしゃるのは何ですか」
「これは王への贈り物だ」
「黄金と…」
「乳香と…」
「没薬と…」
その声は遠くへ消えて行きました。
やがて、一群の羊飼い達がやってきました。
「みんな、そろってどこへ行くの」
「王の元へ!我らの救世主の元へ!」
「何を持って行くの」
「果物さ!」
「蜂蜜さ!」
「キジバトさ!」
「おまえもはやくおいで!!」
羊飼い達は嬉しそうに口々に叫びながら通り過ぎて行きました。
貧しいマデロンには何も贈るものがありませんでした。でも、そんな声を聞くともう我慢出来ません。あわてて一群の後を追いました。羊飼い達はあちこちで人を呼び合って、その人数はどんどん多くなってゆきます。みんな手に手に贈り物をもち、歓声を上げて集まってきました。マデロンはもうとても嬉しくて、飛び跳ねるように走りました。
やがて一行は、あるそまつな馬小屋の前まで来ました。さきほどの紳士達が、生まれたばかりの赤子の前にひざまずき贈り物を捧げていました。その子は光に包まれ、美しい輝きは少女の心のすみずみに広がり、あたたかさで一杯にしました。マデロンはそれが間違いなく神の御子だと感じました。うっとりとそれを眺めていたマデロンは、突然はっとしました。自分には、御子に渡す贈り物が何もないことを思い出したからです。
やがて羊飼いの番となり、めいめい持ちよった心尽くしの贈り物をその子に捧げ始めました。マデロンはせめてお花でもと思い、慌ててあたりを見渡しました。しかし、ベツレヘムの野は深く雪に閉ざされ、捧げる花もありません。マデロンは途方に暮れました。さっきまでの歓びが大きな悲しみに変わりました。そして、とうとう馬小屋の外で泣き出してしまいました。
「何故泣いている」
やさしい声が聞こえて、マデロンは顔を上げました。そこには見たこともない美しい人が立っていました。その人の体は白く輝き背中には大きな羽が休んでいました。
「今宵は悲しみがなくなる夜だ。その夜に、おまえは何を悲しんで泣いているのだ」
そのやさしい声に、マデロンはしゃくりあげながら言いました。
「主がお生まれになったのに、私には何も贈るものがないからです。この冬の野にはさしあげる花もないからです」
「花ならここにある」と、そのやさしい声は言いました。
「この野で最も尊い花が」
天使が彼女の涙を取ると、瞬く間に涙はクリスマス・ローズの清純な花となって、少女の足元に咲きました。
「主の子らよ、覚えておくがいい」
いつしか天使の姿はかき消え、その声だけがベツレヘムの野に響いていました。
「黄金、乳香、没薬、そして、ほかのどんな贈り物の中でも、この花ほど御子にふさわしいものはない」
マデロンはその花を手に、大喜びで幼子の元へ走りました。
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