クリスマス小辞典

Christmas Rose クリスマス・ローズ
Christmas Rose
クリスマス・ローズは、冬の花の中でもひときわ可憐で、そのうつむきかげんの花の姿は清楚な少女を思わせます。クリスマス・ローズの名前はこの花が冬の最中に咲くことからつけられたものだと言われていますが、春先に咲く種類もあります。

● 内容
欧州の人々が愛した花、 イエス・キリストを表した花、
羊飼いの少女の物語
● 関連項目
クリスマス・ツリー、 ヒイラギ、 ミスルトゥ、 ポインセチア
● 関連曲
エサイの根より、Gesu Bambino




欧州の人々が愛した花

クリスマス・ローズ(学名:helleborus niger) は様々な名前で呼ばれています。クリスマス・ローズ(Christmas Rose)、スノー・ローズ(Snow Rose)、ウインター・ローズ(Winter Rose)、クリストローズ(Christrose)、レンテン・ローズ(Lenten Rose)などです。

これはほんとうはバラの仲間ではなく、多年生のハーブで、浅裂の葉をした白い五枚の花弁を持つ花です。冬の最中に花を咲かせるため、「クリスマス・ローズ」と呼ばれています。春先に花を咲かせる種類もあり、それがレント(四旬節)の期間でもあるので、レンテン・ローズの名前で呼ばれる地方もあります。主に中央ヨーロッパの山岳地帯に群生しています。

クリスマス・ローズをあしらったポットとその拡大図
アメリカやメキシコでポインセチアがクリスマスの花となったのに対し、イギリスやドイツではこのクリスマス・ローズがクリスマスの花となりました。常緑樹の葉と共にクリスマスを飾る花として愛用されています。
この花はお皿やポット、テーブル・クロスやナプキン、包装紙、さらにクリスマス・カードの図案としても広く使われています。



クリスマス・ローズのお皿
イエス・キリストを表した花

バラがイエス・キリストを表すことは、聖書を通してよく用いられるメタファーです。マルティン・ルターは、バラを自分の外套の腕に紋章として用いました。
インデアナ州のニュー・ハーモニー(New Harmony) に最初に移民した人々(ハーモニスト:Harmonists)たちは、ゴールデン・ローズをイエス・キリストを表すシンボルにしました。フデレリック・ラップはハーモニストらの教会の扉に金色のバラを絵を浮き彫りにしました。

しかし、イエスを表すバラはいわゆるバラではなく、クリスマス・ローズだったと言われています。これは、旧約聖書「イザヤ書」にある「主の霊がエサイの根に降りる」という次の預言に関連しているようです。
エッサイの株から一つの芽が出、
その根から一つの若枝が生えて実を結び、
その上に主の霊がとどまる。
(旧約聖書「イザヤ書」11章1-2節)
エサイ(Jesse)はイスラエル王ダビデ(David:BC.1000-962頃) の父親のこと(「サムエル記上」16章など)であり、元々はベツレヘムに住んでいた牧人でした。つまり、このイザヤの預言は、ベツレヘムのダビデの直系の子孫に、救世主(キリスト)が現れるという内容だとされています。聖母の後見人ヨセフは、その由緒ある血筋の者でした。

この「根」は、やがて「冬の最中に咲くバラ」と結び付けられ、15世紀ごろの有名なドイツの歌「 エサイの根より」には、はっきり「冬のバラ」と歌い込まれています。
【一口メモ】教会壁画などでは「エッサイの樹」という図柄が有名です。三位一体などと関連して描かれることもあるようで、中世教会ではよく見られたモチーフでした。もちろんこの図柄は樹木であり、クリスマス・ローズの花ではありません。これについては別項でまとめたく思っています。
こうして「クリスマス・ローズ」は、イエスを表す花として人々に愛されるようになりました。「Gesu Bambino」というキャロルも、イエスをこの花に見立てて歌う美しい曲です。

「クリスマス・ローズ」については、こんな言い伝えも残されています。
…クリスマス・イヴのことでした。イエスが誕生するその夜、あらゆるものが神秘な力に包まれていた時、クリスマス・ローズがベツレヘムの凍った大地から現れ、イエスの降誕を見守りました。…


羊飼いの少女の物語

クリスマス・ローズについて、もう一つの有名な言い伝えをご紹介しましょう。これは、ひとりの貧しい羊飼いの少女についてのお話です。

クリスマス・ローズの物語

ベツレヘムにひとりの貧しい羊飼いの少女が住んでいました。その子の名前はマデロンと言いました。

ある寒い夜のこと、マデロンが羊をテントへ入れていると、立派な三人の紳士が通りかかりました。その手には煌く美しい贈り物が握られています。マデロンは思わず尋ねました。

「この寒い夜に、みなさんはどこへ行かれるのですか」
「われわれは王の元へ行く」と、三人の紳士の一人が答えました。
「そう、王の中の王の元へ」もう一人の紳士が言いました。
マデロンはあわてて尋ねました。
「その手に持っていらっしゃるのは何ですか」
「これは王への贈り物だ」
「黄金と…」
「乳香と…」
「没薬と…」
その声は遠くへ消えて行きました。

やがて、一群の羊飼い達がやってきました。
「みんな、そろってどこへ行くの」
「王の元へ!我らの救世主の元へ!」
「何を持って行くの」
「果物さ!」
「蜂蜜さ!」
「キジバトさ!」
「おまえもはやくおいで!!」
羊飼い達は嬉しそうに口々に叫びながら通り過ぎて行きました。

貧しいマデロンには何も贈るものがありませんでした。でも、そんな声を聞くともう我慢出来ません。あわてて一群の後を追いました。羊飼い達はあちこちで人を呼び合って、その人数はどんどん多くなってゆきます。みんな手に手に贈り物をもち、歓声を上げて集まってきました。マデロンはもうとても嬉しくて、飛び跳ねるように走りました。

やがて一行は、あるそまつな馬小屋の前まで来ました。さきほどの紳士達が、生まれたばかりの赤子の前にひざまずき贈り物を捧げていました。その子は光に包まれ、美しい輝きは少女の心のすみずみに広がり、あたたかさで一杯にしました。マデロンはそれが間違いなく神の御子だと感じました。うっとりとそれを眺めていたマデロンは、突然はっとしました。自分には、御子に渡す贈り物が何もないことを思い出したからです。

やがて羊飼いの番となり、めいめい持ちよった心尽くしの贈り物をその子に捧げ始めました。マデロンはせめてお花でもと思い、慌ててあたりを見渡しました。しかし、ベツレヘムの野は深く雪に閉ざされ、捧げる花もありません。マデロンは途方に暮れました。さっきまでの歓びが大きな悲しみに変わりました。そして、とうとう馬小屋の外で泣き出してしまいました。

「何故泣いている」

やさしい声が聞こえて、マデロンは顔を上げました。そこには見たこともない美しい人が立っていました。その人の体は白く輝き背中には大きな羽が休んでいました。
「今宵は悲しみがなくなる夜だ。その夜に、おまえは何を悲しんで泣いているのだ」

そのやさしい声に、マデロンはしゃくりあげながら言いました。
「主がお生まれになったのに、私には何も贈るものがないからです。この冬の野にはさしあげる花もないからです」

「花ならここにある」と、そのやさしい声は言いました。
「この野で最も尊い花が」

天使が彼女の涙を取ると、瞬く間に涙はクリスマス・ローズの清純な花となって、少女の足元に咲きました。

「主の子らよ、覚えておくがいい」
いつしか天使の姿はかき消え、その声だけがベツレヘムの野に響いていました。
「黄金、乳香、没薬、そして、ほかのどんな贈り物の中でも、この花ほど御子にふさわしいものはない」

マデロンはその花を手に、大喜びで幼子の元へ走りました。

<絢>