Christmas Gallery
The Flight into Egypt
Massacre of the Innocents



 「逃亡」「ヘロデの殺戮」



上「幼児の殺戮」
下「殺戮を命じるヘロデ王」
  (幼児の殺戮、部分)」
フラ・アンジェリコ
(15世紀、イタリア)



"Massacre of the Innocents", 1451-3
Museo di San Marco, Florence
Fra Angelico
(Italian, 1387-1455)
 
「聞

け。ラマで聞こえる。苦しみの嘆きと泣き声が。ラケルがその子らのために泣いている。慰められることを拒んで。子らがいなくなったので、その子らのために泣いている。」

これは、旧約聖書「エレミヤ書(31・15)」に記されている預言です。
この預言をふまえ、新約聖書「マタイの福音書(2・16,17)」には次のように書かれています。

その後、ヘロデは、(東方の三)博士たちにだまされたことがわかると、非常におこって、人をやって、ベツレヘムとその近辺の二歳以下の男の子をひとり残らず殺させた。その年令は博士たちから突き止めておいた時間から割り出したのである。
そのとき、預言者エレミヤを通して言われた事が成就した。

どうしてこのような悲惨な事件が起こったのでしょう。
それは東方三博士が、イエスを礼賛した時期に溯ります。
博士たちは、はるばる旅をして、エルサレムへたどり着き、当時ユダヤ王国の王であったヘロデに謁見します。そこでこう尋ねます。

「ユダヤ人の王としてお生まれになった方はどこにおいでになりますか。私たちは、東のほうでその方の星を見たので、拝みにまいりました。」

その言葉が、王やエルサレムの民を恐れ惑わすことになりました。

王は、民の祭司長たち、学者たちを集め、イエス生誕の場所を問いただし、それが預言で「ユダヤのベツレヘム」となってることを知ると、博士たちを呼んでうまく星の出現の時間を突き止ました。それからこう言って彼らをベツレヘムに送り出しました。

「行って幼子のことを詳しく調べ、わかったら知らせてもらいたい。私も行って拝むから。」

博士たちはベツレヘムへ赴き、イエスの元を訪れて礼賛しますが、夢でヘロデのところへ戻るなという戒めを受けたため、別の道を通って自分の国へ帰ってしまいます。
同じころ、ヨセフの夢にも主の使いが現われて、こう言いました。

「立って、幼子とその母を連れ、エジプトへ逃げなさい。そして、私が知らせるまで、そこにいなさい。ヘロデがこの幼子を捜し出して殺そうとしています。」

そこで、ヨセフは夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトに立ちのき、ヘロデが死ぬまでそこにいることになります。

いつまでも帰らない博士たちを訝しんで偵察を送ったヘロデは、博士が姿を消したとわかると、怒り狂い、ベツレヘム附近の2歳以下の幼児を皆殺しにしてしまったのです。


ここにいくつかの疑問が残ります。
なぜ、マギともあろうものが、内紛を抱えたユダヤ王国で、主の生誕という大事な秘密をわざわざ漏らしてしまったのでしょう。
そして、なぜ、ヘロデは幼児を虐殺しなければならなかったのでしょう。

これについては、さまざまな解釈がなされています。しかし、そのどれもが満足のゆく説明とは言えないようです。
確かなことと言えば、ローマ帝国の後ろ盾で成立した「ユダヤ王国」は、ヘロデの死後、ユダヤ人の反乱と、ローマ帝国の侵入により滅んでしまったこと。そして、イエスは成長し、ナザレへ帰ると、主の道を説く長く苦しい道を歩み始る、ということだけです。

その中で、多くの命が消え、そしてまた、多くの命が救われたのでしょう。ある本には、こんな言葉が記されています。

「神のご意志の前には、あらゆる謀(はかりごと)は無意味となる。人は間違いをおかす。それが人の仕事であり、役割だ。そして、神は救う。すべてを赦し、そして愛する。それが神であり、神そのものなのだ。愛しつづけよう。神の御許に近づくために。」


"The Slaughter of the Innocents", 1566
oil on oak panel
Kunsthistorisches Museum at Vienna
Pieter Brueghel (the Elder)
(1525?-1569 Flanders)

「幼児の殺戮」
ピーテルー・ブリューゲル(兄)
(16世紀、フランドル(フランダース))
絵画の世界でも、この場面の絵がいくつか描かれています。

「ヘロデの殺戮」を描いた絵は、上のフラ・アンジェリコのものが有名です。ここでは部分のみを掲載しました。他にブリューゲルの絵(右) などもよく知られています。

「エジプトへの逃亡」のテーマは、ずっと数多く描かれています。逃亡という緊張した状態の一こまに、仲睦まじく休む聖家族の姿が描かれていて、その画面を見ていると、この苦しい日々こそが、幼子イエスにとって一番幸せな時期だったのではないか、と思われてなりません。ここではそのうち3点をご紹介します。

クリスマスの宵、皆様とこれらの絵を見ながら、遠くベツレヘムの地で、そしてエジプトでくりひろげられた、人々の苦悩と、そして歓びを、もう一度思い返してみたいと思います。
 

お好みの絵をクリックしてください。
絵はすべて別ブラウザで表示されます。表示を終える場合はブラウザを閉じて下さい。





"The Rest During the Flight into Egypt"
oil on canvas
Vatican Museums, Vatican(inv. 40398)
Francesco Mancini
(Italian, 1679 - 1758)
(Sant'Angelo in Vado, 1679 - Rome, 1758)

「エジプトへの逃避行での休息」
フランシスコ・マンチーニ
(18世紀、イタリア)
エジプトへの逃避行での一こまを描いたものです。聖母マリアとイエス、そして、ヨセフが苦しい旅の途中でしばしの休息をとっています。
マリアは膝に幼子イエスをのせ、その手にちいさなお椀を持っています。イエスはヨセフの方を向き、ヨセフが差し出すイチゴをとろうとしています。イチゴは生誕の象徴です。
聖家族の背後には、三人の天使が描かれています。うち二人は音楽を奏でています。一人はフルートを吹き、もう一人は歌っています。あとの一人は花の冠 (garland) を捧げ持ち、それを聖母マリアの上にかざしています。
背後にはエジプトのオベリスクがあり、また、ローマ風の建物も見えています。
作者のフランシスコ・マンチーニは、18世紀初頭に活躍した教皇直属の画家です。17世紀の絵画に造詣が深く、さらにコレッジオのマニエリズムにも影響を受けていると言われています。人物は非常にソフトなモデリングがほどこされていて、色と影が調和した美しい画面になっています。
 



"The Flight into Egypt"
oil on canvas
The Hermitage, St. Petersburg
Bartolommeo Carducci
(Italian, approx. 1560-1610)

「エジプトへの逃亡」
カルダッチ
(16世紀、イタリア)
この美しい作品は、16世紀のイタリアの画家、バーソロミュー・カルダッチによるものです。幼子をしっかり抱いた聖母と、それを見守る聖ヨセフの、旅の途中を描いた構図になっています。ここでも天使が花をかざし、家族の道を守っています。南国の植物も描かれ、異郷の地エジプトを暗示しています。
この絵は、現在ロシアのサンクト・ペテルブルグの、エルミタージュ美術館に保管されています。
 



"The Rest on the Flight into Egypt"
oil on canvas
Calke Abbey, Derbyshire
Giuseppi Chiari
(Italian, 1654-1727)

「エジプトへの逃避行での休息」
ジォセッピ・チアリ
(17世紀、イタリア)
この絵もエジプトへの逃避行の一こまを描いたものです。エジプトへの逃避行を導いたと言われる天使アントニウスをはじめ、多くの天使たちが現れて、旅するイエスたちをねぎらっています。背景にはローマの水道橋を思わせるものがあり、エジプトの地が近づいていることを示しています。
チアリの絵は、後の世俗画を彷彿とさせるものがあり、民衆に親しまれる作風になっています。
 



"The Virgin & Child Appearing to St. Hyacinth", 1594
canvas
Mus馥 du Louvre, Paris.
Carracci, Ludovico
(Italian, 1555-1619)

「聖ハイヤシンスへ現れた聖母子」
ラファエロ
(16世紀、イタリア)
あと2点、聖人の元に現れた聖母子の絵をご紹介します。
エジプトの地に逃れた聖母と幼子イエスは、生まれ続ける信仰心の象徴であり、また希望の象徴でもあります。
この2枚の絵に表れた聖母子像は、ともに美しさにあふれ、人々の苦悩を解き放ってくれるようです。この美しさは、「真実」の尊さを表しているといいます。そして、これが聖人の見た「幻視」だとするなら、その聖人たちの心こそ、この聖母子の美しさに最も近いものであったに違いありません。
 



"The Vision of St. Anthony of Padua", 1631
oil on canvas
The Hermitage, St. Petersburg.
Vincenzo Carducci
(Italian, 1578-1638)

「聖アントニウスの幻視」
ヴィンセンゾ・カルダッチ
(17世紀、イタリア)



<絵画選択&コメント: 絢>
Nativity INDEX
ギャラリーTOP



降誕、羊飼いの礼賛

賢者の礼賛

聖家族、聖母子像

逃亡、ヘロデの殺戮